【怪談風味】家の家族は6人です。ときどき増えるときがあります。

in Hive JP3 years ago (edited)

『家は祖父母、父母、ワタシと弟の6人家族です。
じいちゃんは家の隣の役場で村長しています。
出張の時はいろんなところへ連れて行ってくれて、色んなものが見られたり、ケンジンカイカンと言うところで高等ライスやボローニャスパゲッティやオムレット定食が食べられて楽しいです。
ばぁちゃんは一年中シンセキの伯母さんと旅行していて、家に帰ってきても畑で野良仕事やフジンカイしていてご飯時と夜しか家にいません。
おとんは町の消防署で消防士です。
ときどき学校に来て「よいこのみなさんこんにちは」と大きな声で言うのが恥ずかしいです。
24時間キンムなので休みが中々日曜日にならないとおかんが文句を言っていました。
最近お勉強していてひとりごとがうるさいのとテレビが見られなくて皆で困っています。
おかんは家の坂の上に工場を建ててヌイモノ加工屋の社長をやっています。
パートタイマーのおばさんやおねえさんと月曜から土曜まで朝8時から午後3時まで縫物の見本と言うのを分担して縫っています。おかんはシメキリと言うのが近いと夜なべするので朝ごはんになっても家にいない時があります。いっぱいカセイデイルそうなので、おこずかいをもっと増やして欲しいです。
弟はワタシより7つ下で今は保育園に行っています。
でもワタシが長い休みの時はいつもずる休みして、朝から晩まで後ろにいるのでうっとおしいです。
去年ウチが5年生の時に大ばぁちゃんが死にました。
なので家の家族は今6人です。』

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ここまで書いて、私は鉛筆をころころと文机の上で転がし始めた。
「ねーねーおかぁさん」
「ねぇちゃんやて」
土曜日の昼下がり。
宿題の【家族のことを作文にしなさい】に早々に飽きが来た私を目ざとく認めた弟が足元で私を呼ぶ。呼ぶのはいいがこの7つ下の弟は私のことを結構母と間違えて呼ぶのがいただけない。
私はまだ小学六年生だぞ。
だいたい何の脈絡もなく、子供の日でも敬老の日でも、まして母の日でも父の日でもない時期に【家族の作文】なんて。
「ガムのほしい」
「はぁ?また買うの?ガムちゃんと食べんし、プラモはねぇちゃんいつも作ってんやん。ここん所毎日やんか」
「カワバタにちがうのあったの~」
「いややて。あれ作りにくいんやで。だいたいあんた、ほーくえん(保育園の事。弟の舌足らずを真似ていた)から帰ってきて手ぇ洗った?トイレ行った?スモック着たまんまやん。洗濯機入れとかんとおかぁちゃんに叱られるで(ウチが)」
「買いに行くのぉ~~~~」
先刻、人が計算ドリルをやっている所へやってきて、この間読んだ戦時中の話に出てくる憲兵のように「よろしい」とのたまって小銭を机の端に母が置いて行ったのはこれの事か。
私は小銭が二百円あることを確かめ、原稿用紙をひっくり返して筆箱をその上に据えて立ち上がった。

「できたー!」
私は完成したクレーン車を天井に向かって突き上げた。
しかしガムがおまけなのかプラモデルがおまけなのか。
買う相手は絶対子供じゃないだろうと私はうそぶいた。
つい先ほどまで大きな目を皿のように丸くして人の作業、完成は今か遅しかとガブリつきで待ち構えていた弟は文机の足元で寝息を立てている。
私はため息をつきながら部品がつなげられていたプラスチックの枠をニッパーで細かくしてゴミ箱へ流し込む。二人が居る座敷の廊下の左側が玄関なのだが、片付けをがたがたとしている時、扉が開閉する音がして階段を誰かが昇るような気配がした。
「だれか帰ってきたのぉ~?」
目をこすりながら弟がむくりと起き上がる。
私は廊下に座布団をしいて座っているが弟は板場にそのまま寝転がっていたので、頬に板の筋がくっきり付いていた。
それを見てにんまりしながら
「夕方やしおかぁかおとんやら。あんたガムは食べんの?」
ガムを指さすと弟はぷいと横を向いた。
「いらんもん!あ、プラモできたー!おかぁさんにみせる~~」
机の真ん中に鎮座しているクレーン車を無造作につかみかけた弟は、私の顔とそれを見比べるとつかむのは止めて指でつつきながら私の顔を見上げた。
私はため息をつく。
「ハイハイ。見せるの良いけど今日は壊さんといてよ。明日カワバタ休みなんやし」
「おかぁさん二階?」
「知らんし、さっき誰か上がってったみたいやけど」
「ねぇちゃん階段一緒に行って」
「えーめんどくさい。さっきトイレ一緒にいったやんか」
「見せるだけ~連れてって」
弟は当たり前のように両手を出した。人に背負ってもらおうという算段だ。
「ほーくえん年長さんやら、階段くらい一人で上りや」
背負うのはお断りして、私は弟の手を取る。
「クレーン車しっかり持つんやて。えか?」

弟と手つないで階段を上ると倍の時間がかかる。
他所の弟チビ連中をみているともう少し横着でもよさげなのにウチのはめっぽう大人しくて。
生まれたときは大きかったらしいのだが、土曜日に園へたまに迎えに行くと同じ年頃のチビよりなまっ白くて女の子みたい。挙句に昼間でも一人でトイレに行けない、一人で二階へ上がれない、下りれない、おかんの作業場へ行くのも一緒でないと。
いつまで弟の面倒見るんやろな・最近そんなことが頭を掠めることもあった。

…ぺらり

…ぺらりぺらり

「おかぁさんかな。本めくっとるのかな」
「せやなぁ~夕飯なにするか決まってへんのかな」
一段ずつねじり階段を上がって二階につく頃、大した段数ではないけれど変に疲れていた。
弟がちゃんと二階の踊り場に上れたのを見て、弟と同時に居間として使っている部屋に入る。
「おかぁさん、今日はクレーンー」

あれ?

「だぁれもいないねぇ」
弟は部屋の中を不思議そうに歩き回る。
「そうだね、音してたのにね」
私も頭を捻った。
母は「家庭画報」と「暮らしの手帖」を購読していて今月号は二階の居間に使っている部屋に置いていた。なのでさっきのページをめくる音はてっきり母だと思ったのに。
暮らしの手帖がコタツの上に閉じて置かれていた。コタツの布団もめくられた形跡がない。

…ぺらり

…ぺらりぺらり

「ねぇちゃんめくっとるのあっちみたい。あっちあっち」
弟が嬉しそうに居間を出て寝室へ。私もついて行った。
私は気が付いた時から左耳の聞こえが悪かったので、音も聞き間違いと思ったからだ。
「おかぁさんー!」
ひょいっと寝室に顔を突っ込んだ弟が不思議そうに私を振り返った。
「ねぇちゃん、だぁれもいないよぉ……」

…ぺらり

…ぺらりぺらり

つい今しがたまで寝室の方から聞こえていた音が、今度は私と弟の部屋から聞こえる。
何で?と思うより先に足元から冷たい何かが背筋を伝って登って来た。
弟は悲鳴のような声を小さく上げて、足にしがみつく。その勢いがいつもの弟らしからぬ力だったので思わず私は尻餅をついた。

ーーーーどすん!!

「いてぇ!・・・痛いやんか!」
「ねぇちゃんなんでおかぁさんいないのぉ~」
弟は泣きじゃくっている。
「しるもんか!」
ふと見ると右手に握っていたはずのクレーン車がなくなっている。
「あれ、クレーン車は?」
弟は不思議そうに右手を見た。
「ちゃんと持ってろって言ったやんか!」
「持ってたもん、持ってたもん~~!」
わぁわぁ泣き出す弟。

…ぺらり

…ぺらりぺらり

泣き声より大きな音が二階に響いた。
顔を涙まみれにしながら弟がぴたりと泣き止んだ。
顔は真っ青だ。幼児でも何か異常なのがわかるようだ。
こっちは歯がかみ合わない。きっと姉弟揃ってひどい顔をしていたに違いない。
恐々、そろりそろりと私は音がしなくなった寝室を覗き見た。
寝室と言うものの畳の部屋で今の時間は布団は押入れの中だ。
でもなぜか寝室に入るまで弟が持っていたはずのプラモデルの姿は欠片もない。

…ぺらり

…ぺらりぺらり

音はこちらへ来い、そう言ってるように思えた。

だいたいこのおかしなことが解決しようがしようまいが、きっと今夜私たちはここで寝るしかない。
私は意を決して自分たちの部屋のドアノブに手をかけた。
すると。音は元の居間から聞こえるようになったのだ。
私は急に腹が立ってきた。
からかわれている、そんな気がしてきたからだ。

ドアノブを離すと音はまた部屋の中から聞こえる。
『おんぶしよ』
私はいやいやする弟をおんぶしないと置いてくよと脅して背中に乗せた。
しがみつくように言い含める。
弟が背中に張り付くのを感じて、私は先ずはドアを勢いよく開け放つ!

ーーーーーバタン!!

横目で部屋が空なのを確認し片手で弟の尻を支えつつ居間へ取って返す。
部屋で飛び込んだ私たちを待っていたのは。

先刻はこたつの上にあったのは「暮らしの手帖」だけ。
その上に「家庭画報」が(開いて)重ねてあり、さらにその開かれたページの上に寝室で無くしたはずのプラモデルのクレーン車のクレーンがご丁寧に立てて、据えてあったのだ。
「ねぇちゃ、クレーン…」
弟がモグモグ言いかけたのも構わず、私はむんずとクレーン車を掴むと弟を背中に張り付けたまま一段飛ばしで階段を下って廊下を走り、文机のところで尻の支えを解いた。
「さっきのこと、誰にも言うなよ」
「おかぁさんにお話しいい?」
半ば座布団の上に放り出された弟がキョトンと私を見上げる。
「…クレーン車、ぺらぺらに取られてもええのんか?」
「でもおかぁさんに」
「これからプラモ作ってやらんで」
「やだ!!」

母の呼ぶ声がする。
「はーーーーい!」
机の上のねじ回し時計を見ると、もう夕方5時回っている。
ふと外を見ると、祖父が庭の元沓脱石に腰かけて自分の革靴を磨いている。
十月も半ば、秋もだんだんと更けてきた時期だというのに今日は夕焼けで。
祖父はオレンジ色に染まっている。
オレンジの絵の具をぶちまけたようだ。

ーーーあれ、二階に上がったの4時くらいだったよな。

秒針は動いている。
もう一度母の声がする。
「はぁい!!風呂入れるんやらーーーー!!!」
机の原稿用紙の上で、弟がクレーン車でごっこ遊びを始めた。
慌てて筆箱と用紙を取り、ランドセルに放り込む。
また母の声がする。

「わかっとるてーーー!!」

☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回はあんまりぞっとはしないかな?(笑)
我が実家は今現在父の代で建てた家に両親と弟が住んでいます。
今の家に私が小学三年生の時建て替えました。
その前は農家作りの元かやぶきの家にスレートと言うか鉄板を乗せ、
軒先を増築して瓦を乗せた古い家でした。
台所と玄関はいわゆるたたきと言う床で履物をはいて行き来します。
田の字型に四つ八畳の座敷があり、玄関の広間の奥に昔囲炉裏があった板場の部屋と
オクドサンのある台所(私が来た当時すでに物置でした)がありました。
台所に使っていたところは牛や馬がいたそうで、寒くなると厩には色々な動物や
村が栄えていた時は浮浪者が入ってきていたそうです。
寒さで亡くなった浮浪者とかはいなかったらしいのですが、
覚えがあるだけで変な現象が多い家です。
次はどの話をしましょうか。
お楽しみに。