静けさのなかの不安――教皇フランシスコの死と世界の影

in Hive JA8 months ago

ローマ教皇が現実世界の問題に触れ、自らの意見を述べることは、それほど珍しいことではありません。前任のベネディクト16世も、世界が直面する問題として貧困や格差について語ってきました。南欧や南米など、信徒の多くがこうした課題に直面しているためです。しかし、フランシスコ教皇はさらに踏み込み、「どうして高齢のホームレスが野ざらしにされて死亡することがニュースにならず、株式市場が2ポイント下がっただけでニュースになるのか」「飢えている人がいる一方で食べ物が廃棄されているのを見過ごし続けられるのか」「排除と不平等の経済は人を殺す」と訴え、これらを「資本主義の行き過ぎ」として厳しく批判しました。

特徴的だったのは、米国の保守派が信奉する経済理論「トリクル・ダウン理論」を名指しで批判したことです。歴代の教皇が慎重だったこの領域に対し、フランシスコ教皇は文書で「この考え方はこれまでどんな事実によっても立証されたことがないのに、荒々しい経済的パワーを持つ者たちに正当性を与え、現在の経済システムの機能を神聖化している」と明言しました。彼の言う「資本主義の行き過ぎ」とは、端的に言えば「マーケットの行き過ぎ」への警鐘だったのです。

フランシスコ教皇の本名はホルヘ・マリオ・ベルゴリオ(Jorge Mario Bergoglio)といいます。1936年12月17日、アルゼンチン・ブエノスアイレスにイタリア系移民の家庭に生まれ、2013年にカトリック教皇に選出されました。ヨーロッパ以外からの教皇としては約1300年ぶり、ラテンアメリカ、そしてイエズス会出身の初めての教皇でもありました。

グローバルサウス出身者として、彼は繰り返し「世界的な不平等」や「貧しい人々の声」への関心を表明しました。公には「解放の神学」の支持者とは認めませんでしたが、その思想にはラテンアメリカの解放の神学的な影響が見て取れます。すなわち、キリスト教は貧しい者に寄り添い、奉仕すべきであるという理念です。

社会問題への鋭い発言は、気候変動にも及びました。回勅『ラウダート・シ』(2015年)において、フランシスコ教皇は「われわれの共通の家」である地球の保護を呼びかけ、「環境破壊と経済的不正義は根本でつながっている」と指摘しました。気候変動は単なる科学技術の問題ではなく、貧しい人々を最も苦しめる「倫理的問題」であると強調しました。これは宗教界に限らず、世界中の気候正義運動にも大きな影響を与えました。

また、2022年に勃発したウクライナ戦争に関しても、フランシスコ教皇は一貫して即時停戦を訴え、軍事的解決ではなく対話による終結を求め続けました。侵略を明確に非難しつつも、単なる一方的な糾弾に留まらず、戦争そのものの非人道性を強く批判したのです。ウクライナの人々への連帯を表明しながらも、暴力の連鎖を断ち切る努力を国際社会に呼びかけ続けました。

彼の死を悼んだイギリスの政治家ジェレミー・コービンは、「教皇は、他の人々が背を向ける中で、難民やホームレスの人々を温かく迎え入れた。ガザ、ウクライナ、スーダン、コンゴ民主共和国、そしてその他多くの場所で、他の多くの人々が戦争を支持していたときにも、フランシスコ教皇は一貫して平和を訴え続けた。教皇の人間性は私たちすべてにとってインスピレーションであり、彼の不在は深く惜しまれるだろう」と述べました。この言葉は、孤独でも屈せずに弱き者たちに寄り添った教皇の姿勢を、端的に表しています。

ガザとフランシスコ教皇

今朝(日本時間08:15)の本欄投稿では、天に召されたフランシスコ教皇を悼むガザのジャーナリストの声を紹介しました。本稿では、改めて教皇とガザとの関わりを振り返りたいと思います。

グローバルサウスの声に敏感だったフランシスコ教皇は、ガザ地区の苦境にも深い関心を寄せていました。2025年1月、彼はガザの人道危機を「非常に深刻で恥ずべきこと」と呼び、「民間人への爆撃を決して受け入れてはならない」と述べました。また、病院が破壊され、子どもたちが凍死している状況を強く非難しました。さらに「国際社会は、イスラエルの軍事作戦がジェノサイドに相当するかどうかを問うべきだ」と発言し、イスラエル当局から「反ユダヤ主義」との中傷を受けましたが、多くの心ある人々の賛同を得ました。

また、アメリカの映画監督マイケル・ムーア氏が、世界情勢についてフランシスコ教皇に質問し、教皇がそれに答えた場面をFacebookで目にしたこともありました。二人の表情はどちらも真剣で、心から世界の行く末を案じているのが伝わってきました。その光景は、教皇が単なる宗教指導者ではなく、時代の痛みに真正面から向き合う存在であったことを改めて感じさせました。

教皇は亡くなるわずか数時間前、復活祭の日曜日にも「ガザ地区での即時停戦」を訴え、「平和の未来を切望する飢えた人々を助けるよう」国際社会に促していました。最後の瞬間まで、弱き者への連帯を貫いたのでした。

◆参考記事◆
① 罗马教皇方济各去世,曾呼吁“不要害怕中国崛起”
(2025年4月21日付『观察者』(中国))
https://www.guancha.cn/internation/2025_04_21_773136.shtml?s=zwytt

② Pope Francis Was an Amiable Mold Breaker in the Vatican
(2025年4月21日付『Jacobin』(米国))
https://jacobin.com/2025/04/pope-francis-social-justice-obituary

③ 教皇フランシスコの死去:ガザと進行中の大量虐殺に関する彼の主要な声明
(2025年4月21日付『Palestine Chronicle』、ロマーナ・ルベオ記)
https://www.palestinechronicle.com/pope-francis-passing-his-key-statements-on-gaza-and-the-ongoing-genocide/

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